大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和31年(モ)6446号 決定

申請人 須永勝男

被申請人 須藤泰光

主文

本件申請を却下する。

理由

本件申請の要旨は別紙申請書記載のとおりである。

一件記録に徴すれば、申請人須永勝男は台東簡易裁判所に被申請人須藤泰光を被告とし、申立人須永勝男、相手方須藤泰光間の昭和二十七年(イ)第二七五号債務協定和解事件の和解調書の執行力ある正本に関する請求異議の訴を提起し、右執行力ある正本に基く強制執行の停止決定を得、請求棄却の判決を受けるや、当裁判所に控訴を提起し、再び強制執行停止決定を得たが、昭和三十一年五月十九日当裁判所において控訴棄却の判決が言渡されたので、更に東京高等裁判所に上告を提起したうえ、右和解調書の執行力ある正本に基く強制執行の停止決定を求めていることが明らかである。

まず本件申請の管轄の点はどうかというに、右申請は民訴法第五四七条第二項により受訴裁判所の管轄に属するのであり、右にいわゆる受訴裁判所は現に請求異議の本案訴訟が係属する裁判所と解すべきところ、申請人は右のように当裁判所が控訴審としてなした本案判決に対し上告を提起したけれども、右上告の適否を審査するため、一件記録は未だ当裁判所に存しており、上告裁判所たる東京高等裁判所に送付されていないのであるから、右本案訴訟は上告の適否審査のため現に当裁判所に係属しており、従つて本件申請の管轄も当裁判所に属するものと解するのが相当である。

つぎに本件申請の理由の有無につき考える。本件において、申請人は、異議の事由として「前記裁判上の和解は申請外金原政太郎弁護士が申請人から訴訟委任を受けたことがないのに申請人の代理人としてなしたものであるから無効である」旨を主張し、疏明として甲第一ないし第六号証を提出している。しかし金原弁護士の右代理権の有無については、すでに本案訴訟の控訴審において十分審理が尽され、その結果、申請人の主張とは逆に、金原弁護士に代理権があつたことが積極的に認定され、控訴棄却の判決があつたのだから、異議の事由が事実上の点につき疏明があつたとするには、右判決に、判決に影響を及ぼすこと明らかな法令違背、その他適法な上告理由の存在することが、一応、申請人提出の疏明資料により認められることを要し、事実の認定については原判決の認定が経験則に反する点の疏明があることを要するといわなければならないが、申請人の右疏明資料をもつてしては、未だこうした点について疏明があつたということはできないから、本件申請は、この点において許されるべきではない。

なお、本件申請は、民訴法第五一一条による申請と解する余地もないではない。しかし当裁判所が昭和二十九年十一月八日なした強制執行停止決定は民訴法第五四七条第二項により本案判決をなすにいたるまで効力を有するに過ぎないものであるから、当裁判所の前記判決の言渡によつて当然に効力を失うべき筋合のものであつて、右停止決定の取消宣言によつて始めて失効すべき性質のものではない。判決で右取消の宣言をしているのは、単に失効の事実を明らかにしたものに過ぎない。従つて民訴法第五一一条により、判決中右取消宣言の部分に附せられた仮執行宣言の効力を停止してみても、取消宣言の執行力が停止されるだけで(本件の場合こうしたことは無意味なことである。)一旦失効した右執行停止決定の効力を復活せしめるに由なく、全く無意味のものというほかはない。よつてかゝる申請も亦許さるべきでない。

(裁判官 石井良三 藤本忠雄 杉田洋一)

強制執行停止命令申請

東京都杉並区西荻窪一丁目百九十九番地

申請人 須永勝男

同区井荻二丁目二番地

右代理人弁護士 里見馬城夫

千葉県習志野市鷺沼二〇〇番地

被申請人 須藤泰光

申請の趣旨

申請人と被申請人間の台東簡易裁判所昭和二十七年(イ)第二七五号即決和解事件の執行力ある和解調書正本に基く強制執行は本審の判決ある迄これを停止する旨の御命令を求める。

申請の原因

一、右即決和解事件に使用したる委任状に被申請人が弁護士金原政太郎に依頼し被申立人は申請人の和解申立委任状を偽造して右金原に交付し、金原は之れを以て、申請人の代理人となり被申請人を相手方とし昭和二十七年十二月三日台東簡易裁判所に対し債務協定即決和解の申立をなし、同日次の要領の和解調書を作成した。

イ、申請人は被申請人に対し金三十八万円の債務がある事を認め其の代物弁済として、申請人の所有し且つ居住する杉並区西荻窪一丁目百九十九番地所在木造瓦葺平家建坪三十六坪八合七勺の建物の所有権を被申請人に移転する。

ロ、申請人は右建物を昭和二十八年一月末日限り被申請人に明渡す。以下略す。

二、而して金原弁護士は和解の当日即ち昭和二十七年十二月三日和解調書正本を同裁判所に於て受領し乍ら翌年二月十二日迄申請人に何等の通知もせず、申請人は全然斯る事実を知らなかつたのであるが同月二十日突如として右和解調書に基き建物明渡しの強制執行を受けたのである。

三、右和解は債務協定とあるけれども申請人は被申請人に金三十八万円の債務があるものではなく、却つて共同事業経営の名目の下に約五十万円の機械類奪取された程で却つて金五十万円の債権を有するものである。

四、右の如き次第で右は申請人の全然知らぬ和解調書であり、而も和解申立に金原が使用した委任状は申請人が昭和二十六年六月二日被申請人宅に於て紛失した印章の印影であり該印章は其後発見されないのであるが、原審裁判所は「失つたと思つたのが其後発見されて之れを持つている事も稀有でないから、一時紛失したと思つた印章を所持していると見る事は経験則に反しない」として申請人に敗訴の判決を言渡しているが誠に奇怪である。

五、申請人は右判決につき上告をしたのであるが被申請人は言語に絶する悪党であるから茲に強制執行の停止命令を受け執行を停止しておかなければ恢復する事の出来ぬ損害を被るおそれがあるから茲に執行停止命令を申請致します。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例